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How to Build a GTM Motion That Wins in the AI Wars with Nebius' Head of GTM

Nebius社が18か月で40億ドル超のGPUクラウドを構築した7つの教訓

Nebius社とは何者か

Nebius Group N.V.はオランダ・アムステルダムに本社を置くAIインフラ企業だ。NASDAQには「NBIS」として上場している。もとはロシアの大手IT企業Yandexの一部だった。2022年の地政学的混乱を受けて分離が始まり、2024年7月にYandex N.V.から正式に再編・独立した。

独立後のNebiusはフルスタックのAIインフラプラットフォームに集中している。GPUクラウドを自社で設計・構築・運用し、AI開発者やML研究者にコンピューティングリソースを提供する。2025年にはMicrosoftと総額174〜194億ドルの契約を結んだ。Metaとも30億ドル規模の契約がある。時価総額は約217億ドルに達している。

では、ブランドがほぼゼロの状態から、どうやって18か月で40億ドル超の事業を立ち上げたのか。SaaStr AI Annualで同社のHead of GTMであるAndrei Meganovが語った7つの教訓を、一つずつ見ていく。

GPUクラウド市場はいまAWS、GCP、Azureの3社が大きなシェアを占めている。ただし、AI需要の急拡大にともない新規プレイヤーの参入余地は広がっている。日本でもさくらのクラウドがSOC2 Type1報告書を取得するなど、国産クラウドの信頼性強化が進んでいる。こうした市場環境のなかで、後発のNebiusがどんな戦略を取ったのか。その教訓はGPUクラウドに限らず、競争の激しい市場に参入するあらゆる企業にとって参考になる。

教訓1: 高度な顧客から始める

Nebiusには旧Yandex時代から培ったワールドクラスのエンジニアが揃っていた。だから最初から、誰でも使えるプロダクトを目指す道は選んでいない。技術的に高度な要求を持つ顧客に向け、複雑なプロダクトで勝負に出た。

幅広い層を狙うより、自分たちの技術力が生きる相手に集中したほうがプロダクトの方向性は早く定まる。たとえば、大規模なモデルトレーニングを自社で行うAI企業は、GPUクラスタのネットワーク帯域やストレージの性能に細かな要求を持っている。こうした顧客の声に応えることで、汎用クラウドでは提供しにくい差別化ポイントが見えてくる。

つまり、初期顧客の選び方がプロダクトの方向性を決める。Nebiusが最初から高度な顧客にこだわったのは、フィードバックの濃さを重視したからだ。のちのスケールの土台はここで固まった。

教訓2: 厳しいフィードバックを聞く

自分たちのことを本当に知っている人を見つける。そして、厳しい真実を伝えてくれる相手と付き合う。Meganovの言葉を借りれば、耳が痛い批判ほど役に立つ。

スタートアップにありがちな落とし穴は、肯定的な声ばかり拾ってしまうことだ。「いいプロダクトですね」と言ってくれる相手は気持ちがいい。ただし、そこからプロダクトが改善されることは少ない。Nebiusは意図的に辛口のフィードバックを求め、プロダクトの改善に直結させた。

さらに、厳しいフィードバックをくれる顧客は、自社のプロダクトに本気で期待している証拠でもある。この姿勢を初期から持てるかどうかが、あとの成長速度を左右する。教訓1で選んだ高度な顧客がそのまま厳しいフィードバックの源泉になる点も見逃せない。

教訓3: 前提を疑う

海外のデータセンターにあるキャパシティは米国の顧客には売れない。Nebiusも当初はそう言われていた。だが実際に顧客と話してみると、ヨーロッパに置いたトレーニング用のキャパシティなら米国企業にも売れることがわかった。

ここで重要なのは、推論とトレーニングでレイテンシの要件が異なる点だ。推論はエンドユーザーに直接応答を返すため、低レイテンシが求められる。一方、トレーニングはバッチ処理が中心だ。レイテンシの制約が緩い。そのため、物理的に遠いデータセンターでもトレーニング用途なら顧客が受け入れる余地があった。

受け売りの前提に縛られていたら、この市場機会は見逃していた。業界の常識を鵜呑みにせず、自分たちで検証する。それだけでチャンスの幅が変わる。

教訓4: 借りて、速く回す

プロダクト開発で独自性にこだわりすぎる必要はない。Nebiusが推論サービスへの参入を決めたのは、市場で既にうまくいっているモデルを見たからだ。他社のアイデアを取り入れ、実行スピードで上回る戦略を採った。

テクノロジーの世界では時間が武器になる。フィードバックとイテレーションの回転数が多いほどプロダクトは磨かれる。たとえば、競合が3か月かけてリリースする機能を1か月で出せれば、その分だけ顧客のフィードバックを早く得られる。イテレーション回数の差は、半年後に大きなプロダクト品質の差として表れる。

だからこそ、ゼロから発明することに固執しないほうがいい。市場で検証済みのコンセプトを借り、実行の速さで差をつける。後発でも追いつけるのは、この戦略があるからだ。

教訓5: 分断を避ける

Nebiusが後悔していることがある。推論プロダクトとGPUクラウドプロダクトを完全に別のサービスとして作ってしまい、顧客に混乱を招いた。

スピードを優先してプロダクトを分けて走らせるのは一つの判断だ。ただし、切り離しすぎると統合性を失う。顧客から見たときの体験を軸にプロダクトの境界を設計すべきだった、とMeganovは振り返っている。

この教訓はクラウドサービス全般に当てはまる。たとえばさくらのクラウドが新たに導入したIDポリシー機能は、既存のIAMポリシーやアクセスレベルと組み合わせて3層構造の権限管理を提供している。個別の機能をバラバラに作るのではなく、顧客がひとつの体験として使える設計が求められる。プロダクトの速度と統合性のバランスは、あらゆるプラットフォーム事業者が直面する課題だ。

教訓6: 失敗を認める

ブランド認知がゼロに近い段階では、注目されること自体がプラスに働く。失敗を隠すより認めてしまったほうがいい。Nebiusは失敗をストーリーに変えた。

問題を正直に伝えて素早く軌道修正する姿勢は、特に初期顧客との信頼関係で効く。逆に言えば、失敗を隠して後から発覚したほうが、はるかにダメージが大きい。透明性が長期的な信頼を築く。

加えて、失敗を公開することにはマーケティング効果もある。SaaStrのようなカンファレンスで「こうやって失敗した」と語れば、同じ課題を抱えている聴衆の共感を得られる。教訓5で触れたプロダクト分断の失敗も、Meganovは隠さず語っている。こうした姿勢が結果としてNebiusの認知拡大に貢献した。

教訓7: チームを戦略的に作る

採用にはできる限り社内リクルーターを使う。外部のリクルーターは候補者を幅広く送ってくるが精度が低い。社内なら、必要なプロファイルに絞り込める。

もう一つMeganovが指摘したのは、成長速度と文化の関係だ。年間30%を超えるペースで人員を増やすと、組織の文化は維持できなくなる。それ以上の速度で伸びるなら、既存の文化を守ろうとするのではなく、新しく入る人たちの文化と融合させて別のものを作る覚悟が要る。

この点は見落とされがちだが、スケーリングの成否を分ける要因になる。Nebiusは旧Yandex出身のメンバーで始まったが、事業拡大に伴い急速に採用を増やした。そのとき、旧来の文化を押し付けるのではなく、新しいメンバーとの融合を選んだ。組織文化は固定されたものではなく、成長とともに進化させるものだという考え方だ。

GPUクラウド構築から何が見えるか

Nebiusの事例が示すのは、後発でもやりようがあるという事実だ。18か月で40億ドル超の事業を立ち上げた背景には、旧Yandex由来の技術力、厳しいフィードバックを求める文化、前提を鵜呑みにしない姿勢がある。

7つの教訓に共通するテーマはスピードと集中だ。高度な顧客に絞り、厳しいフィードバックを集め、前提を自分たちで検証し、借りてでも速く回す。このサイクルを回しながら、プロダクトの分断を避け、失敗は隠さず認め、チームは戦略的に育てる。

AI需要の拡大にともない、GPUクラウド市場はAWS・GCP・Azure以外のプレイヤーにも開かれつつある。クラウドインフラのセキュリティ基準への対応も各社が急いでいる。既存の強みと実行スピードを掛け合わせれば、短期間で競争力のあるプラットフォームを立ち上げられる。Nebiusはそれを証明した。

疑問と回答

Q: Nebius社はどの国の企業ですか?
Nebius Group N.V.はオランダ・アムステルダムに登記上の本社を置き、NASDAQに「NBIS」として上場している。旧Yandex N.V.から2024年7月に分離・再編された。

Q: NebiusのGPUクラウドはどのくらいの規模ですか?
2025年時点で時価総額は約217億ドル。Microsoftとの174〜194億ドル規模の契約やMetaとの30億ドル契約を結ぶなど、急速に拡大している。

Q: 7つの教訓の元ネタは何ですか?
SaaStr AI AnnualでNebiusのHead of GTMであるAndrei Meganovが登壇した内容を、SaaStr Blogがまとめた記事がベースになっている。

Q: GPUクラウドはAWS・GCP・Azure以外にもあるのですか?
ある。AI需要の拡大により、Nebius以外にもCoreWeaveやLambda Labsなど、GPU特化型のクラウドプロバイダーが台頭している。汎用クラウドとは異なり、大規模AIトレーニングに最適化したインフラ設計で差別化を図っている。

Q: NebiusのGPUクラウドと大手クラウドの違いは何ですか?
Nebiusは大規模AIトレーニングに最適化したインフラを提供している。NVIDIAの最新GPUを大量に搭載したクラスタと、高帯域のネットワーク構成が特徴だ。汎用クラウドのGPUインスタンスと比べて、大規模トレーニング時の効率で優位性がある。

参考リンク

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